はじめに:Webサイトリニューアルという「賭け」に勝つために
綺麗になったのに「誰も来ない」…そんな悪夢を見ていませんか?
企業のWeb担当者様にとって、数年に一度の「Webサイトリニューアル」は一大イベントですよね。
「デザインを一新してブランドイメージを高めたい!」
「問い合わせを倍増させて社内をあっと言わせたい!」
そんな期待を胸に、決して安くはない予算と、長い期間をかけてプロジェクトを進めてこられたはずです。
でも、いざ蓋を開けてみたらどうでしょう?
「見た目はすごく綺麗になった。でも、問い合わせが以前より減っている気がする…」
「検索順位が急に落ちてしまって、アクセス数が激減した…」
「管理画面が使いにくくて、更新が面倒になってしまった…」
実はこれ、決して「運が悪かった」わけではありません。Web制作の現場に長年携わってきて、リニューアルに失敗したサイトも数多く目にしてきた私たちからすると、非常によくある「失敗のパターン」なのです。
多くの企業が、「新しくすれば良くなるはず」という思い込みから、「動いているサイト」を壊し、結果として以前よりもパフォーマンスの低い「デジタル廃墟」を作ってしまう。これは本当にもったいないことです。
本記事では、リヌーボデザインが提唱する「Re:Think(再定義)」の視点から、なぜリニューアルプロジェクトが座礁してしまうのか、その構造的な原因を徹底的に解剖します。
すでに公開済みの下記2記事でも触れていますが、今回はさらに踏み込んで、サイトが死に至るメカニズムを「5つの死因」として診断し、そこから蘇るための「処方箋」をお渡しします。
「失敗」の定義:見た目の美しさではなく「生命力」がないこと
まず、「失敗」とは何かをはっきりさせておきましょう。
誤字脱字があるとか、納期が少し遅れたといったことは、修正できる「かすり傷」です。
Webサイトにとっての本当の「死(失敗)」とは、ビジネスに貢献するという本来の役割を果たせなくなることです。
具体的には、次のような症状が出ていたら要注意です。
- 脳死状態(戦略がない)
何のためにリニューアルしたのか、社内の誰も明確に答えられない。「社長が変えたいと言ったから」で止まっている状態です。 - 心停止(アクセスがない)
リニューアル直後に主要キーワードが検索圏外に飛び、お客様の流れ(トラフィック)がプツリと途絶えてしまった状態です。 - 多臓器不全(機能しない)
デザインは素敵なのに、問い合わせボタンが見つけにくい、表示が遅くてイライラする、スマホで見づらいなど、使い勝手が悪くて成果につながらない状態です。
これらは、サイト公開後の祝杯の裏で静かに進行します。この病理を理解することが、再生(Re:Value)への第一歩です。それでは、具体的な「5つの死因」を見ていきましょう。
第1章:死因その1【戦略的心不全】 目的不在の「なんとなくリニューアル」
「古くなったから」は動機であって、目的ではありません
失敗するリニューアルの第1位は、間違いなくこれです。「戦略の欠如」。
プロジェクトの始まりを思い出してみてください。こんな会話はありませんでしたか?
「今のサイト、なんかデザインが古臭いよね」
「競合のA社がサイトをリニューアルしてお客さんを奪われてる気がする」
「スマホで見ると崩れるところがあるんだよね」
これらはリニューアルをする「きっかけ(動機)」ではありますが、「目的」ではありません。
しかし、多くのプロジェクトでは、この「きっかけ」を解消すること自体がゴールになってしまいます。「古臭いから、今風のデザインにする」「スマホ対応にする」。これで満足してしまうのです。
でも、経営者や担当者様が本当に求めていたのは、「デザインを変えること」そのものではなく、その先にある「成果」だったはずです。
表1:動機と「本当の目的」の違い
| 項目 | よくあるきっかけ(動機) | 誤ったゴール(手段の目的化) | 本来あるべきビジネス目的 (KGI/KPI) |
| デザイン | デザインが古い、飽きた | かっこいいデザインにする | ブランドの信頼感を高め、指名検索を20%増やす |
| デバイス | スマホで見づらい | レスポンシブ対応にする | スマホ経由の離脱率を下げ、採用エントリーを倍増させる |
| システム | 更新が面倒 | 最新のCMSを入れる | 更新頻度を上げて、コンテンツマーケティングで集客する |
このように、本来の目的は常に「数値」や「ユーザーの行動」に紐付いているべきです。ここ(心臓部分)が止まったまま、見た目(皮膚)だけを若返らせても、サイトは走り出しません。「なんとなく」で始めたプロジェクトは、必ず迷走します。
「丸投げ」が生む悲劇と「見えないコスト」
「Webのことはプロに任せたほうがいい」
そう思って、制作会社に「いい感じで提案してください」と丸投げしていませんか?
これは、「どんな家でもいいから、住み心地の良い家を建ててくれ」と大工さんに頼むようなものです。大工さん(制作会社)も困ってしまいますよね。
自分たちのビジネスの強み、顧客の悩み、競合との違い。これらを一番理解しているのは、制作会社ではなく、御社の社員の皆様です。
ここを言語化した「RFP(提案依頼書)」を作らずに進めると、後になって「思っていたのと違う」「この機能は別料金です」といったトラブルが頻発します。これこそが、予算オーバーや納期遅延を引き起こす「見えないコスト」の正体です。
「幕の内弁当」になっていませんか?
戦略があいまいだと、社内の「声の大きい人」の意見に振り回されてしまいます。
営業部は「製品カタログを全部載せたい」、広報部は「社長のブログを目立たせたい」、採用担当は「社員インタビューをトップに」。
それを全部断れずに詰め込んだ結果、トップページは情報の「幕の内弁当」状態に。
どれも美味しそうに見えますが、ユーザーからすると「何が一番のおすすめ(重要)なのか」が全く分かりません。結果、誰もクリックせずに帰ってしまいます。
Webサイトにおいて「あれもこれも」は「どれも選ばれない」と同じことなのです。
第2章:死因その2【視覚的肥満と機能的拒食症】デザイン偏重の罠
「おしゃれ」の代償に、使いやすさが窒息していませんか?
「せっかくお金をかけるんだから、同業他社に自慢できるようなカッコいいサイトにしたい!」
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。でも、ここに大きな落とし穴があります。
Webサイトのデザインとは、本来、装飾(デコレーション)」ではなく「設計(デザイン)であるべきです。
ユーザーが知りたい情報に、迷わず最短でたどり着けるように設計すること。それが一番の「美しさ」です。
しかし、「視覚的肥満(見た目重視)」に陥ったサイトでは、こんな症状が現れます。
- 英語だらけのメニュー
「Company」「Products」「Contact」…。シュッとしてカッコいいですが、英語が苦手な方や、急いでいる方にとっては「解読するストレス」でしかありません。SEO的にも不利です。 - 過剰なアニメーション
ページを開くとロゴがくるくる回り、画像がふわっと現れる。最初は「おっ!」と思いますが、2回目からは「早く見せてくれ!」というイライラに変わります。 - 隠されたメニュー(ハンバーガーメニュー)
PCサイトなのに、メニューがおしゃれな「三本線」の中に隠されている。クリックしないと中身が見えないのは、お店のメニューを裏返して置いているようなものです。
クリスマスツリー効果:詰め込みすぎによる崩壊
リニューアルの時って、「せっかくだから」という心理が働きやすいですよね。
「せっかくだからチャットボットも」「動画も流そう」「SNSも埋め込もう」。
こうして機能を飾りすぎたサイトは、飾りの重みで倒れてしまう「クリスマスツリー」のようになります。
一番の問題は「重くなる(表示速度が遅くなる)」ことです。
Googleの調査では、スマホでの読み込みに3秒以上かかると、半数以上の人が「もういいや」と諦めて帰ってしまうと言われています。
多機能なサイトを作ったつもりが、誰も見てくれないサイトになってしまっては本末転倒です。これが「機能的拒食症(本来得るべき成果が得られない)」の状態です。
第3章:死因その3【循環器系不全】SEOの自滅とアクセスの消失
301リダイレクト:忘れると即死する「転送届」
これが最も恐ろしい、Webサイトリニューアルの「即死トラップ」です。
リニューアルした翌日から、検索順位が圏外に飛び、問い合わせ電話がピタッと止まる。まるで神隠しです。
原因の9割は、「301リダイレクト設定」のミスです。
リニューアルでURLが変わることはよくあります(例:site.com/products.html → site.com/item/001)。
この時、古い住所(URL)に来た人を、新しい住所へ自動的に転送してあげる設定が「301リダイレクト」です。引っ越しの時の「郵便物の転送届」と同じですね。
これを忘れるとどうなるか?
Googleは「あれ? 今まで評価していたページがなくなったぞ。新しいこのページは…知らないページだな。評価はゼロからだ」と判断します。
長年積み上げてきた「ドメインの信頼性」や「検索順位」という資産を、一瞬でドブに捨てることになります。これは本当に取り返しがつかない損失です。
「スッキリさせたい」が生む、コンテンツ削除の悲劇
「サイトがごちゃごちゃしてるから、ページを減らしてスッキリさせよう」
この判断も危険です。
担当者様が「古いから要らない」と思ったそのブログ記事や導入事例が、実は「ニッチなキーワード」で検索上位を取っていて、そこから毎月安定してお客様を連れてきてくれているかもしれません。
アクセス解析を見ずに、感覚だけでページを削除(コンテンツ・ダイエット)してしまうのは、集客の入り口を自らコンクリートで塞ぐようなものです。
「スッキリさせる」ことと「捨てる」ことは違います。必要な脂肪(コンテンツ)まで削ぎ落として、栄養失調にならないように注意が必要です。
第4章:死因その4【代謝異常】システム不適合と運用の形骸化
「誰でも更新できる」という幻想
「リニューアル後は、社内で誰でも簡単に更新できるようにしたい!」
これも必ず挙がるご要望です。しかし、そのために導入した高機能なCMS(更新システム)が、逆に更新を止めてしまうことがあります。
- 難しすぎて触れない
「何でもできる」システムは、裏を返せば「操作が複雑」です。ITに詳しい担当者がいるうちは良くても、その人が異動した瞬間、誰も触れない「ブラックボックス」化します。 - 自由すぎてデザイン崩壊
誰でも自由にレイアウトを変えられるようにした結果、担当者が変わるたびに文字サイズや色使いがバラバラになり、サイト全体の統一感が失われていくパターンです。
本当に必要なのは「高機能」ではなく、現場のスキルに合わせた「使いやすさ」です。無理なシステム導入は、組織の代謝(更新頻度)を悪くしてしまいます。
「作って終わり」になっていませんか?
Webサイトリニューアルの失敗の多くは、リニューアルを「ゴール」と考えてしまうことから始まります。
公開日にテープカットをして、「あー疲れた、終わった!」とチーム解散。予算も使い果たしている。
でも、Webサイトは生き物です。公開した瞬間から、情報の鮮度は落ちていきます。
最終更新日が2年前の「お知らせ」、退職したスタッフが載っている「社員紹介」。これらは、訪問者に「この会社、動いていないのかな?」という不安を与えます。
リニューアル予算の中に、その後の「運用・保守・改善」の予算(ランニングコスト)を組み込んでおかないと、サイトは栄養補給ができず、徐々に衰弱死してしまいます。
第5章:死因その5【コミュニケーション窒息】独りよがりなコンテンツ
相手は「御社の歴史」に興味はありません
ここまで技術的な話をしてきましたが、最後は「中身(コンテンツ)」の話です。
失敗するサイトに共通しているのは、インサイド・アウト(内側から外側へ)の視点で作られていることです。
「我が社の創業の精神は…」
「当社の組織図は…」
「新製品のスペックは…」
主語がすべて「我々(会社)」になっています。でも、お客様が興味あるのは「自分」のことだけです。「自分のこの悩みが解決できるのか?」「自分にとってどんな得があるのか?」。
成功するサイトはアウトサイド・イン(顧客視点)で語りかけます。
「あなたのその課題、こうすれば解決できますよ」
「あなたの業界では、こんな成功事例がありますよ」
トップページの一等地に「社長の挨拶」が鎮座していませんか? お客様が本当に知りたい「メリット」や「価格」が、深い階層に埋もれていませんか? これではコミュニケーションが成立せず、窒息してしまいます。
「高品質」「迅速対応」…それ、みんな言ってます
キャッチコピーをカッコよくしようとして、抽象的な言葉ばかり並べてしまうのもNGです。
「お客様第一」「ソリューションカンパニー」「高品質・短納期」。
耳障りは良いですが、競合他社もみんな同じことを言っているので、お客様の心には何も残りません。
「高品質とは、具体的に数値で言うと?」「迅速とは、何分以内のこと?」
お客様が求めているのは、美辞麗句(ポエム)ではなく、信頼できる証拠(エビデンス)です。ここが抜けていると、いくらデザインが良くても「検討リスト」には入れてもらえません。
第6章:復活への処方箋 リヌーボデザインの「4つの再生プロセス」
ここまで、Webサイトが失敗する「5つの死因」を見てきました。
「うわっ、うちのサイトだ…」と冷や汗をかかれた方もいるかもしれません。
でも、諦める必要はありません。そして、またゼロから作り直して、数百万のお金をかける必要もありません。
リヌーボデザインの哲学は、「リセットではなく、再利用・再価値化」です。
今あるサイトの資産(コンテンツやドメインパワー)を活かしながら、問題のある箇所だけを外科手術のように治療する。それが私たちの提唱する「4つの再生プロセス」です。
処方箋1:Re:Think(再定義)戦略の心臓マッサージ
まずは止まってしまった「戦略」の心臓を動かします。
小手先の修正をする前に、「そもそも、このサイトは何のためにあるんだっけ?」を問い直します。
- 現状の健康診断
アクセス解析などのデータを使って、どこが詰まっているのか、なぜ成果が出ないのかを客観的に診断します。 - ゴールの再設定
「かっこいいサイト」ではなく、「月間問い合わせ30件」といった具体的な数値目標(KGI/KPI)を立て直します。
この「Re:Think」こそが、今回の記事カテゴリーのテーマでもあります。ここが定まれば、迷走していたプロジェクトに一本の軸が通ります。
処方箋2:Re:Design(再設計)ユーザー導線のバイパス手術
戦略が決まったら、次はお客様の流れ(導線)をスムーズにします。
見た目を派手にするのではなく、「使いやすさ」を取り戻す作業です。
- 情報の断捨離
「幕の内弁当」状態のトップページを整理し、お客様が本当に知りたい情報を特等席に配置します。 - スマホ最適化
パソコンのデザインをただ縮小するのではなく、スマホ指での操作に合わせた快適な体験を作ります。
詰まってしまった血管(導線)を開通させる、バイパス手術のようなものです。
処方箋3:Re:Build(再構築)システムとSEOの集中治療
デザインを支える裏側の技術を治療します。
- SEOの救済
もしリダイレクト設定を忘れていたなら、今からでも救える部分がないか調査し、適切な処置を行います。 - 表示速度の改善
重たい画像を軽くしたり、無駄なプログラムを整理したりして、サクサク動くサイトにします。これだけで離脱率は劇的に下がります。
処方箋4:Re:Value(再価値化)コンテンツのリハビリと資産化
最後に、サイトに魂(コンテンツ)を吹き込みます。
- 言葉の変換
「会社自慢(インサイド・アウト)」の文章を、「お客様への提案(アウトサイド・イン)」に書き換えます。 - 信頼の獲得
具体的な事例やデータを追加し、「ここなら任せられる」と思ってもらえる信頼性を構築します。
これで、サイトはただの「箱」から、企業の「資産」へと生まれ変わります。
結論:失敗は「終わり」ではなく「始まり」です
Webサイトリニューアルの失敗は、担当者様にとっては本当に辛い経験だと思います。
でも、その失敗したサイトの前で立ち尽くす必要はありません。
失敗したということは、「何が機能しなかったか」という貴重なデータが得られたということでもあります。
「スクラップ・アンド・ビルド(壊して作り直す)」を繰り返すのは、もう終わりにしましょう。企業の体力も、担当者様のモチベーションもすり減らすだけです。
必要なのは、冷静な「診断(Re:Think)」と、的確な「治療(Re:Design / Re:Build)」、そして継続的な「リハビリ(Re:Value)」です。
「もったいないサイト」を、「働くサイト」へ。
もし、御社のサイトが今回挙げた「5つの死因」に当てはまると感じたら、それは再生への第一歩を踏み出した証拠です。
そのサイトは、まだ死んでいません。私たちが、蘇らせます。ご連絡ください。



