はじめに
日本のWeb制作業界において、企業のWeb担当者様や経営層が陥る最も深く、かつ致命的な罠が存在します。それは「デザインさえ美しく刷新すれば、Webサイトの成果(コンバージョン)は劇的に改善する」という誤った信仰です。
膨大な予算と時間を投じてリニューアルを行ったにもかかわらず、問い合わせが増えない、あるいは逆に減少してしまう「もったいないサイト」が後を絶ちません。
この現象は、単なる戦術的なミスではなく、私たちの意思決定の心理プロセスや、Webデザインに対する根本的な誤解に起因する構造的な問題です。
本記事では、なぜ日本のWebサイトリニューアルが「デザイン偏重」に陥り、その結果としてビジネス上の失敗を招くのか、その深層を徹底的に解剖します。
非専門家が陥る「わかりやすさ」への依存、美しさが判断を曇らせる心理学的メカニズム、そして中小企業を疲弊させる「大手企業模倣」の罠について、多角的な視点から分析を行います。
そして、これらの失敗を乗り越え、既存の資産を活かしながら成果を出せる「働くサイト」へと再生させるための論理的アプローチとして、リヌーボデザイン(Renoovo Design)が提唱する4つの再生プロセス(Re:Think、Re:Design、Re:Build、Re:Value)の詳細とその有効性を解説します。
第1章:なぜ日本のWeb制作は「デザイン偏重」になるのか? 構造と心理の病理
Webサイトのリニューアルプロジェクトにおいて、多くのステークホルダーが「デザイン」を最優先事項として捉えています。しかし、この「デザイン偏重」こそが、プロジェクトを失敗へと導く最大の要因です。
なぜこれほどまでにデザインが重視され、本質的な成果が軽視されてしまうのでしょうか。その背景には、評価システムの欠陥や、制作業界のビジネスモデルが複雑に絡み合っています。
1.「わかりやすさ」の罠:非専門家が判断できる唯一の共通言語
Webサイトの構築は、マーケティング戦略、情報設計(IA)、ユーザー体験(UX)、SEO(検索エンジン最適化)、コピーライティング、技術的なシステム実装など、多岐にわたる専門知識が要求されます。
しかし、プロジェクトの最終決定権を持つ経営者や、承認プロセスに関わる役員の方々の多くは、必ずしもこれらの専門領域に精通しているわけではありません。
ここで発生するのが「評価の非対称性」です。
例えば、SEOの内部構造が適切か、導線設計が行動経済学に基づいているかといった「機能的価値」は、目に見えず、専門知識がなければ良し悪しを判断することができません。
対して、「ビジュアルデザイン」は誰の目にも明らかです。「かっこいい」「きれい」「今っぽい」「好き・嫌い」といった感覚的な評価は、専門知識を一切必要とせず、誰でも直感的に意見を述べることができます。
この「評価の容易性」が、意思決定の重心をデザインへと歪めてしまいます。
会議室において、論理的なデータ分析や戦略よりも、スクリーンに映し出された美しいデザインカンプ(完成見本)の方が、出席者の感情を動かし、議論を活性化させます。
「もっと明るく」「ここを赤く」といった具体的な指示が出しやすいため、参加者は「仕事をした気」になりやすく、合意形成(コンセンサス)の道具としてデザインが利用されるのです。
結果として、プロジェクトの目的が「ビジネス課題の解決」から「決裁者が納得する見た目を作ること」へとすり替わってしまいます。
| 評価軸 | 専門知識の必要性 | 判断の容易さ | 会議での議論しやすさ | 成果への直接的影響 |
| ビジュアルデザイン | 低(感性で判断可能) | 高(一目瞭然) | 高(全員が発言可能) | 中〜低(信頼感には寄与) |
| 情報設計・UX | 高(論理的思考が必要) | 低(使ってみないと不明) | 低(説明コストが高い) | 特大(CVに直結) |
| SEO・技術仕様 | 極大(専門性が必須) | 極低(不可視) | 極低(理解されにくい) | 大(集客に直結) |
2.Web制作業界のビジネスモデルと「売りやすさ」の力学
制作会社側の事情も、このデザイン偏重を加速させています。
多くのWeb制作会社にとって、最も売りやすく、かつ単価を正当化しやすいのが「デザイン」という商品だからです。
見積もりの構造的欠陥と「目に見える成果物」
Web制作の見積もりは、伝統的に「ページ単価」や「デザイン費」「コーディング費」として算出される傾向があります。
一方で、戦略策定、ペルソナ設計、競合調査といった上流工程のコンサルティング業務は、形として残りにくいため、その価値を顧客に説明し、高額な費用を請求することが困難です。
「調査に100万円かかります」と言うよりも、「トップページのデザインに100万円かかります(アニメーション付き)」と提案する方が、お客様の納得を得やすいのが現実です。
さらに、複雑な機能開発や高度なマーケティング施策は、実装リスクや成果責任を伴います。対して、デザイン(見た目)は、クライアントの好みに合わせれば「納品完了」としやすく、検収のリスクが比較的低いという側面があります。
その結果、制作会社は利益を確保し、スムーズに納品するために、過剰な装飾や不要なインタラクション(動き)を提案し、「リッチなサイトを作った」という満足感を提供することに注力しがちになります。
これは制作会社の悪意というよりは、業界全体の商習慣と発注者のリテラシーが生み出した構造的な欠陥と言えます。
コンペティション(コンペ)という悪習
多くの企業がリニューアル発注時に実施する「デザインコンペ」も、問題の根源の一つです。コンペでは、限られた時間の中で、初対面のクライアントに強烈な印象を与えなければなりません。
緻密な戦略やUXの深さは、短時間のプレゼンテーションでは伝わりにくく、どうしても「パッと見のインパクト」で勝敗が決まります。
この環境下では、制作会社は「ユーザーのためのデザイン」ではなく、「コンペに勝つためのデザイン」を作成することにリソースを全振りせざるを得ません。
発注者の担当者が好みそうなテイスト、流行のあしらい、派手なアニメーション……。これらが詰め込まれた提案書は確かに魅力的ですが、そこには「なぜそのデザインなのか」「どうやって成果を出すのか」という本質的な問いかけが欠落しています。
コンペという選定プロセス自体が、最初から「デザイン偏重」を強制しているとも言えるのです。
第2章:デザインは良いのに結果が出ない心理学的メカニズム
「デザインは社長も気に入っている」「社員の評判も良い」「制作会社の実績も素晴らしい」。それなのに、なぜ成果が出ないのでしょうか。
ここでは、人間の意思決定を歪める心理バイアス(認知バイアス)の観点から、その原因を解明します。デザインが持つ「魔力」がいかにして経営判断を狂わせるか、そのメカニズムに迫ります。
1.ハロー効果(Halo Effect):美しさが論理的判断を麻痺させる
心理学における「ハロー効果」とは、ある対象の顕著な特徴(この場合は「デザインの美しさ」)に引きずられて、他の無関係な特徴(「使いやすさ」や「信頼性」「機能性」)まで高く評価してしまう現象です。
Webデザインにおいて、これは最も強力かつ危険なバイアスです。
0.05秒の第一印象と、その後の思考停止
ユーザーはWebサイトにアクセスした瞬間、わずか0.05秒でそのサイトの第一印象を判断すると言われています。
この一瞬で「美しい」「プロフェッショナルだ」と感じると、ユーザー(そして発注者も)は無意識に「このサイトは使いやすいはずだ」「この会社の商品は優れているはずだ」というポジティブな仮説を形成します。これを「美的ユーザビリティ効果」とも呼びます。
しかし、2002年のLindgaardとDudekの研究が衝撃的な事実を示しています。見た目の評価が非常に高いサイトであっても、ユーザビリティテスト(実際にタスクを行わせるテスト)での失敗率が50%を超えるケースが存在したのです。
さらに恐ろしいことに、タスクに失敗した(目的の情報に辿り着けなかった)にもかかわらず、被験者の満足度は高いままでした。
つまり、美しさは「使いにくさ」を隠蔽するマスクとして機能します。リニューアル直後に「評判が良い」と感じるのは、このハロー効果によってユーザーや社内関係者の目が一時的に曇らされているからです。
しかし、ビジネスの成果(コンバージョン)は正直です。美しさに目が眩んでも、使いにくいフォームや見つからないボタンは、確実に離脱率を高め、CVR(コンバージョン率)を低下させます。
これが「評判は良いが数字が出ない」という現象の正体です。
2.確証バイアス:不都合な真実の無視
経営者やプロジェクト責任者が陥りやすいのが「確証バイアス」です。
これは、自分の仮説や信念を支持する情報ばかりを無意識に集め、反証となる情報を無視または過小評価する心理傾向です。
「デザイン=成果」という強固な思い込み
リニューアルプロジェクトにおいて、「デザインを刷新すれば、ブランドイメージが向上し、売上が上がるはずだ」という強い信念(仮説)を持ってスタートする場合がほとんどです。
この信念があると、リニューアル後に以下のような情報処理が行われます。
- ポジティブ情報の過大評価
「デザインがきれいになったね」という取引先からの社交辞令や、社内の好意的な意見だけを拾い上げ、「リニューアルは成功した」と確信を深めます。 - ネガティブ情報の無視
一方で、Google Analyticsが示す「直帰率の上昇」や「滞在時間の減少」「問い合わせ件数の横ばい」といった客観的な警告シグナルを目にしても、「まだ公開直後だから」「季節要因だろう」「ユーザーが新しいデザインに慣れていないだけだ」といった理由をつけて、データの意味を矮小化します。
特に、デザインの決定に深く関与した責任者ほど、自分の判断(このデザインを選んだこと)が正しかったと信じたい心理(自己正当化)が強く働きます。
その結果、データに基づいた早期の軌道修正が行われず、成果が出ない状態が長期間放置されることになります。
3.サンクコスト効果:失敗を認められない「もったいない」心理
Webサイトのリニューアルには、数百万円から一千万円超という多額の費用と、半年や1年という長い期間、そして多くの社内リソースが費やされます。
この既に支払ってしまい回収不可能なコストを「埋没費用(サンクコスト)」と呼びますが、これが合理的な撤退や修正を妨げます。
「引き返せない」という恐怖と固執
もしリニューアル後に成果が出なかった場合、論理的に考えれば、すぐに問題箇所を特定し、デザインを修正したり、極端な場合は元の構成に戻したりすべきです。
しかし、人間は「損失回避」の傾向が強く、「あれだけのお金と時間をかけたのだから、このデザインで何とかして成功させなければならない」という心理的拘束(コンコルド効果)が働きます。
「今さらデザインを変えるなんて言えない」「もう少し様子を見れば成果が出るはずだ」。そうして、効果のない広告費を追加投入したり、小手先の修正を繰り返したりして、傷口を広げていきます。
この心理は、「Re:Think(再考)」や「Re:Build(再構築)」という抜本的な改善アクションを拒絶し、失敗したデザインに心中する道を選ばせてしまうのです。
第3章:中小企業を殺す「大手企業模倣(Apple/Nike症候群)」
「Appleのような洗練されたサイトにしたい」「Nikeのようなブランドの世界観を作りたい」。多くの中小企業の経営者様が、リニューアルの際にこう口にされます。
トップランナーを参考にすること自体は悪いことではありません。しかし、Web戦略において、中小企業が大手企業のブランディング手法を表面的に模倣することは、自殺行為に等しい危険性を孕んでいます。
1.役割と目的の決定的違い:ブランディング vs ダイレクトレスポンス
大手企業(ナショナルクライアント)と中小企業では、Webサイトが果たすべき役割、置かれている市場環境、そしてユーザーの訪問動機が根本的に異なります。
この前提を無視してデザインだけを真似ると、機能不全に陥ります。
| 特徴 | 大手企業(Apple, Nike等) | 中小企業・B2B企業 |
| 主な目的 | ブランドイメージの維持・強化、世界観の醸成 | 新規リード獲得、問い合わせ、受注(売上直結) |
| ユーザーの流入経路 | 指名検索 例:「iPhone」「ナイキ スニーカー」 | 一般検索 例:「大阪 水漏れ 修理」「業務用冷蔵庫 格安」 |
| ユーザーの知識レベル | 商品・会社を既に知っている | 会社を知らない。解決策を探している |
| 有効なデザイン戦略 | 引き算の美学 説明を省き、イメージで訴求 | 足し算の親切さ 信頼性、証拠、メリットを徹底的に説明 |
| 求められるUX | 体験・没入感 | 納得・解決 |
「説明しない」ことが許されるのは王者だけ
Appleのサイトが極端にシンプルで、文字情報が少なくても成立するのは、世界中の誰もが「iPhoneとは何か」「Appleがどんな会社か」を知っているからです。ユーザーは既に教育されており、詳細な説明を必要としていません。
しかし、知名度のない中小企業のサイトに初めて訪れたユーザーは、「この会社は怪しくないか?」「自分にとって何の得があるのか?」と強い警戒心を持っています。
この状態で、Appleを真似て説明を省き、抽象的なイメージ写真と「未来を、共に。」といったポエムのようなキャッチコピーだけを見せられたらどうなるでしょうか。
ユーザーは「何屋かわからない」と判断し、数秒で離脱します(直帰率の悪化)。
中小企業に必要なのは、情緒的な世界観ではなく、泥臭いまでの「具体性」と「説得材料」です。ニッチな市場で信頼を勝ち取るためには、大手にはできない丁寧な説明こそが武器になります。
2.成果を阻害する具体的なデザイン・トレンドの罠
「おしゃれなサイト」「流行のデザイン」に見せるために採用されがちなUI(ユーザーインターフェース)要素が、実はコンバージョンを劇的に低下させる要因となっている具体例を挙げます。
ハンバーガーメニューの濫用
スマートフォンでは標準的なハンバーガーメニュー(三本線のアイコン)を、PCサイトでも「デザインがスッキリするから」という理由で採用するケースが増えています。しかし、これは「メニューの中に何があるか」を隠してしまう行為です。
ユーザーは、クリックするという手間をかけないと、そのサイトに「会社概要」があるのか「料金表」があるのかを知ることができません。
情報の全体像(サイトマップ)が見えないことは、ユーザーに強いストレスを与え、回遊率を低下させます。
PC画面には十分な幅があるのですから、主要なメニューは隠さず全て見せる(グローバルナビゲーション)のが、ユーザビリティの鉄則です。
抽象的なヒーローイメージ(ファーストビューの動画化)
トップページのファーストビューに、画面いっぱいの動画や、巨大な高解像度写真を配置するデザイン(ヒーローイメージ)が流行しています。
多くの中小企業がここで犯す失敗が、「雰囲気動画」の採用です。社員が笑顔で談笑しているシーン、キラキラした光の粒が舞うCG、ドローンで撮影した風景。これらは確かに「きれい」ですが、情報の伝達量はゼロです。
B2Bの検討者は、情緒的な映像を見に来たのではなく、具体的なソリューションを探しに来ています。
さらに、大容量の動画や画像はページの読み込み速度(Page Speed)を著しく低下させます。
Googleの調査によれば、読み込みに3秒以上かかると53%のモバイルユーザーが離脱します。見た目のインパクトのために、半数の顧客を門前払いしているのと同じです。
カルーセル(スライダー)の無効性と「バナーブラインドネス」
トップページでメインビジュアルが自動的に横にスライドする「カルーセル」。多くの情報を省スペースで見せられるため、クライアントにも制作会社にも人気があります。
しかし、多くのユーザビリティ調査において、カルーセルは「ほとんどクリックされない」「ユーザーに無視される」ことが指摘されています。
人間は動くものに目がいく習性がありますが、それは「広告だ」と認識して無視するためです。
また、ユーザーがテキストを読もうとした瞬間に画像が勝手に切り替わってしまうことで、コントロールを奪われた不快感を与えます。
重要な情報は、スライダーの中に隠さず、スクロールして読めるように静的に配置すべきです。
第4章:Webサイトは「減価償却資産」か? コンテンツとデザインの価値
経営的な視点からWebサイトを見た場合、「デザイン」と「コンテンツ」の資産価値には決定的な違いがあります。これを理解せずにデザインに投資し続けることは、企業の経営資源を浪費し続けることに他なりません。
Webサイトを「消費財」として扱うか、「資産」として扱うか。この認識の差が、数年後のROI(投資対効果)に大きな差を生みます。
1.デザインの「賞味期限」と急速な陳腐化(減価償却の罠)
会計上、Webサイトの制作費は(機能が含まれる場合など条件によりますが)無形固定資産(ソフトウェア)として計上され、一般的に5年で減価償却されます。
税法上は5年の価値があるとみなされますが、Webデザインの実質的な「賞味期限」はもっと短いのが現実です。
Webデザインのトレンドサイクルは非常に早く、2〜3年で「古臭い」と感じられるようになります。流行の最先端を取り入れたデザインほど、その流行が去った時の「時代遅れ感」は顕著です。
つまり、デザインへの投資は、公開した瞬間から急速に価値が目減りしていく「消費」に近い性質を持っています。
1000万円をかけて「今最高にかっこいいデザイン」を作っても、それは3年後には「一昔前のデザイン」という負債になりかねません。
デザイン偏重のリニューアルは、この「減価」との戦いを永遠に強いられるモデルなのです。
2.コンテンツは「積み上げ型資産」
一方で、サイト内に蓄積される「コンテンツ(記事、事例紹介、顧客の声、Q&A、ホワイトペーパー)」は、時間が経つほどに価値を増す「資産(ストック)」です。
質の高いコンテンツは、Googleなどの検索エンジンにインデックスされ続け、長期間にわたって無料で集客を続けます(SEO効果)。
また、蓄積された事例やノウハウは、顧客の信頼を醸成し、競合他社に対する参入障壁となります。
デザインが多少古くなっても、そこに書かれている「解決策」や「専門的な知見」の価値は失われません。
しかし、デザイン偏重のリニューアルでは、しばしば「スクラップ&ビルド」が行われます。
「デザインを一新するために、過去のコンテンツは整理して捨てましょう」「URL構造も新しくしましょう」といった提案により、それまで積み上げてきたドメインの評価や検索順位という資産を、リセットしてドブに捨ててしまうケースが後を絶ちません。
これは、改装のために基礎工事まで爆破してしまうようなものです。
3.「リノベーション」という経済合理性
不動産の世界において、建物を解体して新築するよりも、骨組み(構造)を活かして内装や設備を更新する「リノベーション」の方が、コストパフォーマンスが良いことは常識です。Webサイトも全く同じです。
「全面リニューアル」より「部分改修・再構築」の方が、投資対効果(ROI)が高くなるケースが多々あります。
- 全面リニューアル(新築)
コスト高、期間長、SEO下落リスク大 - リノベーション(部分改修)
コスト適正、期間短、資産継承
既存のコンテンツやドメインという資産を守りながら、コンバージョン導線や古びたUI、モバイル対応といった「ボトルネック」だけをピンポイントで修正する。
これが、変化の激しいWeb業界において、最も合理的かつ持続可能な戦略です。
次章で紹介するリヌーボデザインのプロセスは、まさにこの「資産価値の最大化」を目的としています。
第5章:失敗を「再生」する4つのプロセス:Re:Think, Re:Design, Re:Build, Re:Value
ここまで、デザイン偏重のリニューアルがなぜ失敗するのか、その構造的・心理的理由を詳述してきました。
では、既に「デザインは良いのに結果が出ないサイト」を作ってしまった企業、あるいはこれからリニューアルを考えているが失敗したくない企業は、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
リヌーボデザイン(Renoovo Design)は、失敗したサイトを「働くサイト」へと蘇らせるために、4つの再生プロセス(4つのRe:)を提唱しています。
これは、単なるデザインの修正作業(コスメティックな変更)ではなく、ビジネスの根本を見つめ直し、Webサイトを再定義するためのフレームワークです。
1.Re:Think(再定義):ビジネスの「核」を問い直す
多くのリニューアル失敗プロジェクトは、「なぜリニューアルするのか」という目的が曖昧なまま、「きれいにする」「古くなったから」という手段が目的化することから始まっています。
Re:Thinkは、一度立ち止まり、この「Why」を突き詰めるフェーズです。
何をするのか
- 目的の再設定
「かっこよくする」ではなく、「問い合わせを月〇件にする」「採用エントリーの質を高める」といったビジネスKPIを設定します。 - ターゲットの再定義
「誰のためのサイトか」を明確にします。経営者のためでも、制作会社の実績のためでもなく、「顧客」のためのサイトであることを再確認します。
デザイン偏重への対策
「もっとインパクトが欲しい」という要望に対し、「それはどのターゲット層の、どのような心理変容を狙ったものか?」と問いかけます。
論理的な裏付けのない「好み」を排除し、プロジェクトの判断基準を「主観」から「客観的戦略」へとシフトさせます。
これは、第2章で述べた「確証バイアス」や「サンクコスト」を断ち切るための最も重要な儀式です。
2.Re:Design(再設計):見た目ではなく「構造」をデザインする
Re:Thinkで定義した戦略に基づき、サイトの設計図を引き直します。
ここで言う「デザイン」とは、表面的な装飾ではなく、機能と情報の設計(Design)を指します。
何をするのか
- 情報設計(IA)の最適化
ユーザーが迷わずにゴールに辿り着けるよう、サイトマップとナビゲーションを再構築します。例えば、ハンバーガーメニューに隠された重要ページを表に出し、階層構造を整理します。 - UX(ユーザー体験)デザイン
ユーザー心理と行動経済学に基づき、導線を設計します。「不安」を取り除き、「期待」を高め、「行動」を促すためのコンテンツ配置を決定します。
デザイン偏重への対策
- 「広告っぽいカルーセル」や「意味のない動画」といった、成果を阻害する要素を容赦なく排除します。
- ハロー効果を「悪用」するのではなく、「信頼感」や「安心感」を醸成するための機能的なデザイン(マイクロコピーの改善、EFO、信頼の証拠となるファクトの提示)を実装します。
3.Re:Build(再構築):資産を活かし、最小コストで最大効果を
ゼロからの作り直し(スクラップ&ビルド)は、コストがかかるだけでなく、既存のSEO評価を失うリスクがあります。
Re:Buildでは、「リノベーション型Web制作」を行います。
何をするのか
- 資産の継承
既存サイトのドメイン、サーバー、そして何より「評価されている良質なコンテンツ」はそのまま活かします。リニューアルで消されてしまったコンテンツを復活させたりもします。 - 部分改修
Re:Designで特定された「ボトルネック」となる箇所(例えば、使いにくいフォーム、訴求力の弱いLP、スマホで見づらいページ)だけを技術的に改修します。
デザイン偏重への対策
予算配分を変えます。見た目を全とっかえするデザイン費用を削り、その分をコンテンツの質を高めるライティングや、コンバージョン率を高めるためのフォーム改善にリソースを集中させます。
コストを抑えながら、最短距離で「成果が出る状態」を作り出します。
4.Re:Value(再価値化):サイトを「消費財」から「資産」へ
リニューアル(改修)はゴールではありません。公開後の運用こそが、サイトの価値を高める本番です。
Re:Valueは、サイトを継続的に成長させるフェーズです。
何をするのか
- データドリブンな改善
公開後のアクセスデータ(AhrefsやGoogle Analytics等)を分析し、仮説と結果のズレを修正します。ヒートマップツールなどを用いて、ユーザーがどこで迷い、どこで離脱したかを可視化し、UIを微調整(LPO)します。 - コンテンツの積み上げ
ブログや事例紹介を継続的に追加し、SEO評価を高め、顧客接点を広げます。
デザイン偏重への対策
「デザインの美しさ」ではなく、「数字(成果)」を共通言語として運用します。
「社長が気に入らないから変える」のではなく、「CVRが落ちたから変える」「クリック率が高いから伸ばす」という判断基準を定着させます。
これにより、経営者の主観的な介入を防ぎ、客観的な「資産価値」を着実に積み上げていきます。
結論:Web担当者様へ
「Webサイトリニューアルの失敗を再生・刷新!」
この言葉は、単に見た目を変えることを意味しません。それは、思考(Think)を正し、設計(Design)を論理的に行い、資産(Build)を有効活用し、真の価値(Value)を取り戻すプロセスです。
デザインは重要です。決して不要なものではありません。適切なデザインは信頼を生み、ブランドを伝えます。
しかし、それはあくまで戦略を機能させるための「機能」の一つであり、土台となる戦略や設計がなければ、どんなに美しいデザインも砂上の楼閣です。
「成果が出ないのはデザインのせいではないか?」と悩み、さらに新しい、もっとかっこいいデザインを求めて彷徨うのはもう終わりにしましょう。
成果が出ないのは、デザインのせいではありません。それは、デザインに過剰な期待を寄せ、Webサイトの本質的な役割である「ユーザーの問題解決」を置き去りにしてしまった、プロセスのせいなのです。
今こそ、Re:Think(再定義)から始めましょう。見た目のリニューアルではなく、成果のリニューアルを。
リヌーボデザインは、デザインで誤魔化すことはしません。泥臭いまでの分析と、論理に基づいた再設計で、あなたの会社のWebサイトを「ただそこにあるだけの高価な装飾品」から「24時間365日利益を生み出し続ける優秀な営業マン」へと生まれ変わらせます。

